2016/07/25
田村医師会会長 石塚尋朗
田村地方夜間診療所の活動
平成26年4月から診療を開始した夜間診療所であるが、この4月から3年目の活動に入ることになる。地域医療の問題点を少しでも改善したいという我々地域の医師の切なる願いに県・自治体の理解が得られ、そして国・県医師会はじめ多くの関係団体の支援・協力により実現したこの診療所には当初休日在宅当番医制事業に参加しているすべての医療機関医師が参加するという方針であったが、結局2名の高齢会員と1病院を除く該当医療機関すべての会員が参加してスタートした。そのメンバーは現在まで一人も脱落せずに持ち回りの夜間診療に従事している。さらに夜間診療所内の会議室で開かれた研修会や自治体をはじめとする関係団体との会議などがこの2年間で30回にも及ぶことから、当初の計画通り、この診療所は医師会活動の拠点としての役割をも十分に果たしていると思われる。
さて夜間診療所のこの2年間での通算受診者数は約2,000人となった。7時から9時半まで受付し診療時間は7:30分から10時までと定めているが、感染症流行時を除き通常は一桁の受診者数が続き、医師・看護師等の人件費など自治体の負担が大きいことは明白である。これに関して、利益を求めるためではなく住民のために真に必要な機能として存在すべきという公的医療の本質を深く理解しておられる田村市長の存在は住民にとっても夜間診療所を支える医師会にとってもまことに心強いものである。
夜間診療所の今後の課題としては、診療時間の延長、そして現在空白となっている土・日・祝日及びお盆・年末年始期間の夜間診療を実施していくことであるが、これらに関しては翌日に自らの医療機関において診療に従事する医師たちの体力等の限界を考えるとき、会員数が多いとは言えない現在の田村医師会の医師のみで実施していくことは不可能であると言わざるを得ない。しかしながら先に述べた通り、ただの一人の医師も輪番制から脱落していないということに今後の希望を見る思いがする。
関係団体との連携
夜間診療所に限らずこれからの地域医療に必要なのは、地域の医師全員が協力して地域医療を支えていくという意識である。
特に我々の医師会管区のように人口が密集しておらず、原発事故以来ますます過疎化・高齢化が進んでいる管区の医師会では、限られた数の医師、医療従事者が、介護従事者そして自治体と連携して地域住民をどのように支えていくかを考え行動していかなければならない。そこで忘れてならないのは地域住民の安全・健康・生命を守るという医師会と共通した使命を持つ地域の機関との連携である。大震災とその後の原発事故の経験から、防災と迅速な災害への対処がいかに重要であるかが身に染みているが、当医師会では地域の警察署・消防署そして自衛隊との連携を図るべく代表者が集い地域の実情について意見を交換する機会を設けている。このような場で地域の救急医療の実態について現場からの声を聴くことができ、また地域の一人暮らしの住民のサポート等について協力することができる。災害現場で名刺交換するなどというような事態は当然回避できることになる。
救急医療について
先に現場の声について触れたが、管区内の救急医療の実態について述べたい。現在田村医師会管区内で救急車出動の要請があったとき、二次救急への対応を期待できる病院は三春にある町立三春病院のみである。地域医療の現場に何が必要かを見極める能力と意志を持つ院長のもとで周辺医療機関医師の応援をも得て大きな役割を果たし、高齢化・過疎化が進む管区の住民の救急時医療を支えるために孤軍奮闘、それに加えて夜間診療所の診療にも参加し同時に後方支援病院としての役割を担っている姿には頭が下がる思いであるが、この広い田村地方の中で救急医療の機能を果たす公的病院が一か所であるということは誠に慙愧に堪えない。
大震災以前からほとんどの会員医師が、地域内で機能する救急医療機関の不足から多くの住民が管区外へ救急搬送されているという現状を憂慮している。一刻も早い現状の改善が望まれる。
田村地方医療介護連携協議会の活動
先に地域の医療従事者・介護従事者・自治体の連携について述べたが、田村医師会が呼び掛けて発足した田村地方医療介護連携協議会は、定期的に研修会を開き具体的な症例検討の場を設け、地域の医療介護の連携を強化するべく活動を続けている。県からの助成により支給されたタブレット端末により患者さんたちの情報をかかりつけ医師・医療従事者・介護従事者のチームで迅速に共有することができるようになり大きな力となっている。今後も参加者を増やし、個々の利益を超え地域全体を支える医療・介護の環境が重要であるというという意識が医療・介護の担い手はもちろん住民の間に浸透すること、それとともに地域に必要な機能を充実させることを目指し活動していきたい。それが今後の田村医師会管区に残された希望への道筋であると考える
課題
この報告をまとめるにあたり大震災後5年を経た現状について会員に意見を寄せてもらった。原発事故以降、医師・看護師不足による地域医療の質の低下が生じ、若い世代の減少により医療スタッフの高齢化も進み現場が疲弊していることがもはや明白である。
特に震災直後より多くの避難住民を積極的に受け入れてきた自治体、そして一時避難区域と指定されていた地域の医療機関では深刻な医療スタッフ不足がみられる。医師たちも疲弊している。今回さまざまな回答が寄せられたが、そこからは管区内の自治体間の医療環境というものへの理解と意気込みの違いが感じ取られ改めて課題が浮き彫りにされた。
大震災・原発事故以来、医師会の果たすべき役割は従来のものよりさらに大きくなっている。今後の医師会が行うべきことは、正しい地域医療の在り方を模索し連携を強め、必要な助力を公に訴え協力して力強い医療圏を構築していくことにあると考える。それは紛れもなく5年前の悪夢を体験し未だその中にいる多くの住民の福利につながる道であり、医師会の使命がそこにあると考える。