福島県田村地域における2013年~2014年インフルエンザ発生報告のまとめ

田村地域インフルエンザ情報ネットワーク
責任者:石塚尋朗

はじめに

福島県田村医師会は田村市、三春町、小野町の3市町、総人口65,700人(平成26年7月1日現在)を管轄している。
2011年~2012年にかけて流行した豚インフルエンザ(H1N1)の地域内の発生状況を把握する目的で、田村医師会を中心として、田村地域インフルエンザ情報ネットワーク(Tamura Influenza Information Network : TIIN) が設立された。現在は医師、歯科医師、薬剤師、行政、そして教育関係者からなる、100名を超えるTIIN会員からの発生報告をもとに、インフルエンザ流行初期から流行ピーク時、そして流行終息時まで、各地区での流行状況、学校での流行状況等、さらには罹患者のワクチン接種の有無等を、原則、FAXあるいは電子メールで事務局まで報告があった日の21時までにまとめ、その日のうちに会員にメールにて返送し、翌日からの診療等に役立てていただけるようにしている。同時に田村地域内の発生状況を行政区別にして田村医師会ホームページ(www.tma.or.jp)にすみやかに掲載し、住民がその情報を享受し、迅速に対応できるようにしている。

目的&方法

本年度のインフルエンザ発生状況をreal timeに把握し、様々な検討を加えることで、来年度からの流行時の対策を立てるうえでの基盤とすべく、TIINに寄せられた報告を、罹患者の居住地域から田村市、三春町、小野町、その他に分類してまとめた。総人口に対する発生報告数の割合を計算し、毎日寄せられた報告をもとに週ごとの発生報告数もまとめ、2011年以降、各年度の発生状況パターンと比較した。さらに、罹患者の性別、年齢、ワクチン接種の有無別にもまとめ、検討を加えた。

結果

2013年~2014年の毎日のTIIN報告をまとめると、インフルエンザ週別発生報告数の推移は図1のようになる。
※各図・表をクリックすると拡大されます。

図1図をみてあきらかなように、豚インフルエンザが流行した2009年~2010年を除いて、過去3年その流行時期は年度第1週から始まり、4、5週目にその流行ピークが見られたが、本年度(2013年~2014年)の流行は、過去の流行パターンと異なり、流行のピークが2峰性で、その流行期間も長期にわたった。インフルエンザをA型、B型でみてみると、この2峰性は前半のA型による流行と後半のB型による流行によって構成されていることがわかる(図2)。

図2さらに、前半のA型発生の流行時期が例年に比べて遅いことがわかるし、後半の主にB型発生によるピークは2012年~2013年のインフルエンザ発生状況(後半の小ピーク)に酷似していることがわかる。全国のインフルエンザ流行状況と比較すると、当地域での流行が遷延化したことと、その一因としての後半でのB型の発生が多かったことが注目された(図3)。

図33市町の年度別インフルエンザ発生総報告数を表1に示した。

表1本年度は昨年と同程度の総報告数を認め、それぞれの自治体で総人口の4~5%の発生が認められた(表2)。

表2発生報告を性別で見ると、男女ともほぼ同率の発生であったことがわかる(図4)。

図4年齢別では小学生(6~12歳)での発生報告数が際立って多いことがわかる(図5)。

図5さらに詳細に年齢別発生報告を検討すると、田村全域で、A型では乳幼児と小学生で多くの発生が見られたが、成人でも30歳台をピークとしてその報告数が多かった(図6)。B型は乳幼児、小学生での発生数が顕著で、その他の年代ではとくにピーク形成は認められなかった(図6)。

図6一方、型別でみると、例年とは異なり、3市町ともB型が多く発生していた(表3)。

表3報告されたインフルエンザ罹患者がワクチン接種をうけていたかどうかを検討してみると、A型、B型ともにワクチン接種を受けていない人の数が、受けている人の数を上回ったが、A型ではその差が顕著であった(A型ではワクチン未接種/接種済=1.67、B型では1.16)(図7)。

図7インフルエンザ発生報告を累積して経時的にその推移をみてみると、田村全域で、A型は19歳以上群で多くみられ、B型はA型の流行に遅れ、0~19歳未満群で多かったことがわかる(図8)。

図8各地区でみてみると、田村市ではA型の発生で、流行後半期で0~19歳未満群での増加が認められ、B型では明らかに0~19歳未満群での発生が多かったことがわかる(図9、図9-1~図9-5)。

図9図9-1図9-2図9-3図9-4図9-5一方、三春町、小野町ではA型の発生は19歳以上の群で多く、B型の発生は三春町では田村市と同様に0~19歳未満群で多く、小野町では2年齢群間で差は認められなかった(図10、11)。

図10図11

考察

本年度のTIINに寄せられたインフルエンザ発生報告をまとめてみると、本年度は例年の流行状況と異なっており、その因は流行後半時期のB型インフルエンザの流行によるものと考えられた。例年に比しB型の発生報告がA型のそれに比べて多かったのも本年度の特徴であろうか。

ワクチン接種の効果の有無は、A型、B型ともにワクチン未接種の罹患者の数が多く、A型でそれが著明であった。ということは、A型ではワクチンを接種していたほうが罹患する危険が減少し、逆にB型ではワクチン接種の有無で罹患に影響がなかったことを示唆するのかもしれない。

今回の検討で注目されたのは、地区別でA型・B型の経時的発生報告数に相異があったことである。田村市で、なぜ三春町・小野町と異なって、流行後半期に若年層で発生報告が多かったのか、小野町でのB型発生報告で年代間に差が見られなかったのか、今後も、各地区のインフルエンザ発生報告に注目していく必要がある。

(あくまでも筆者の私見ではあるが田村市でA型インフルエンザの後半流行期に0~19歳未満群で増加した理由のひとつとして、13歳未満へのインフルエンザワクチン接種費用の補助が田村市ではここ2年行われていないことにの原因を求めることができるかもしれない。しかし、TIINでは各行政区別のワクチン接種者、ワクチン未接種者の総数が把握できていないので、単純には判定はできない。今年度の発生傾向に注目していきたい。)

年度別ごとにインフルエンザの発生報告を把握しておくことは、各地区でのインフルエンザ流行の初期における予防対策、流行の遷延化を防止するための統計的基盤になりうるものと考えている。TIIN会員間での連絡・連携、あるいは田村医師会HPを通しての住民への警鐘で、流行初期の対策、流行の遷延化を未然に防ぐ一助となれば幸いである。

最後に

TIINは、今後流行するかもしれない新型インフルエンザに対して有効な情報連絡手段システムの一つと考えられるので、田村地区だけでなく、福島県全域でこのような情報ネットワークを拡げるために、皆様と情報の共有化を目指していきたいと考えている。

最後に、今回の報告をまとめるうえでご協力を賜ったTIIN会員各位に深謝いたします。